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呉服屋の娘のよもやま話

高速!おため返し

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「おため」という言葉をご存じだろうか。


「おため」とは、京都の贈り物の一つである。

元々は結婚のお祝い金の一割をその場で(!)返金する習慣のことを指す。

そこから転じて、頂き物のお返しも「おためを返す」と表現する。


子供の頃から不思議だったことの一つに、この「おため返し」がある。

母が近所の人にお菓子やくだものをおすそわけすることがある。
すると、必ずといっていいほど、近所の人がお菓子なり別の品物をその場でくれる。
間に合わせがなくその場で渡せなかった時でも、次の日にはちょっとしたものを届けてくれた。

プレゼントをもらう→高速おため返し

この暗黙のルールが不思議でならなかった。
確かに、贈り物をいただいた後にお返しをすることは自然なことだろう。
でも、どうしてちょっと必死な感じなのか。
できるだけ早く返さなきゃ…!子供ながらにそんな空気を感じ取っていた。


今思うと「おため返し」とは、できるだけ恩を作らないための手段である。
もちろん「物を下さってありがとうございます」という感謝の気持ちを込めた「おため返し」ではあるが、どちらかといえば「恩を返さないと不利になるから、早めに返しておこう…」という意図が見え隠れする。

そしてそのような意図を笑顔に隠し「おおきに~、つまらないもんですけど、これでもどうぞ」と高速おため返しを繰り出すのが京都人である。


英語の語源とは異なるが「Gift」はドイツ語で毒を意味するらしい。
恩を売ることは毒を盛るとも曲解できる。

毒をもって毒を制す(?)おため返しである。

 

京都 贈りもの手帖 (act books)

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