京都のお姑さん
京都の家で一番恐ろしい存在は、お姑さんである。
今でこそお姑さんと同居することは少なくなったが、ちょっと上の世代だとお姑さんと住んでいる家は珍しくない。
そして、そういう家で一番恐ろしい存在は、決まってその家のおばあさんなのだ。
という訳で、うちのおばあちゃんがやばい、という話である。
うちの祖母は今年で85歳、今も元気にうちの店で働いている。
元は西陣の糸屋の娘で、根っからの京女である。
今でこそ祖母も丸くなったが、うちの母が嫁いだ時はそれはもう恐ろしかったらしい。
母が若い頃、父との結婚の挨拶のため、初めて父の実家を訪ねたことがあった。
出迎えた祖母は、開口一番こう尋ねた。「お父様のお仕事は?」
母が面喰いながら「ちゅ、中学校の校長です…」と答えると、今度はお茶とバナナが出てきた。
なんでバナナ?と思う間に、食卓にはバナナに添えてフォークとナイフが並べられた。
「どうぞ、おあがりやす」
祖母は笑顔で母を見つめている。食卓には、お茶とバナナとフォークとナイフ。
(フォークとナイフ? フォークとナイフを使ってバナナを食べるの?え?)
混乱した母は隣の父に「どうやって食べるの…?」と小声で尋ねた。
父は「こうやって食べるんやろ」と平然とバナナを手で剥いて食べてみせた。
そのおかげで、「いただきます」と普段通りバナナを食べることができたそうだ。
どうやら祖母はわざとフォークとナイフを出して、母がバナナをどうやって食べるか試したらしい。
恐らくこの家に嫁ぐにふさわしいかどうかを試したのだろうが、なぜそんなことをしたのか、40年近く経った今でも誰も聞けずにいる。
京都のお姑さんの恐ろしさは、面と向かって言わないところにある。
嫁にふさわしいか試す時も、自分の意にそぐわない時も、回りくどい方法で伝えてくる。
それを汲み取れる者だけが、京都の家に嫁げるのかもしれない…。
(…なんて冗談です。今はそんな家はありません、たぶん。)
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