座持ちの舞妓
「祇園のヌシ」という異名を持つ男性と祇園で飲んだことがある。
ヌシ様は、かれこれ40年祇園で遊びぬいた方である。
その日、二軒目に選んだ元芸妓さんがママをしているバーで、ちょっと面白いことがあった。
「○○さん、このあいだはおおきに、ありがとうございました」
隣のテーブルのお客さんに付いてきた舞妓さんが、わざわざヌシ様に挨拶をしてくれた。
明るく感じのよい舞妓さんであったが、
(あれ、ちょっと、舞妓にしてはおへちゃさんやな…)
と失礼ながら思ってしまったことを覚えている。
その舞妓さんが帰ってから、ヌシ様がこう言った。
「今の舞妓さん、ちょっとおへちゃさんやったやろ」
はい、とも言えないので、はぁ…と間を濁していると、ヌシ様は続けてこう言った。
「舞妓さんはな、座持ちがええのが一番や。そら撮影用や観光用には顔のええ舞妓を使うけども、お座敷に呼ぶのは座持ちの舞妓なんや。今の妓は、顔はおへちゃさんかもしれんけど、いまに座持ちのええ舞妓になる。ああいう妓に限って、襟替え(芸妓になること)でもしたら、ぐっと色っぽうなるんやで。」
「座持ち」とは、お座敷を盛り上げる能力のことである。
芸舞妓は顔が良いだけではつとまらない、座持ちの良さが肝心であるとヌシ様は語った。
すると元芸妓のバーのママさんも加わって、
「○○ちゃん(さっきの舞妓さん)は、こないだも場を盛り上げようとして、~してたで。ほんまにええ妓や。」
などと褒め始めた。本職の芸妓さんにも褒められるくらいだから、良い舞妓さんなのだろう。
たとえおへちゃさんでも、座持ちが良ければ愛される。
日常における「座持ちの舞妓」を目指そう、と思った出来事であった。
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